湯飲みの茶渋は、洗えば落ちるのに、なぜ、歯についた茶渋は、歯磨きだけでは、なかなか落ちないのでしょうか。その理由は、私たちの歯の表面で、起こっている、特殊な、化学的なプロセスにあります。歯の、最も外側を覆っている「エナメル質」は、体の中で、最も硬い組織ですが、その表面は、完全に、ツルツルなわけでは、ありません。顕微鏡レベルで見ると、無数の、微細な凹凸や、エナメル小柱という、柱状の構造の隙間が、存在します。そして、このエナメル質の表面は、常に、「ペリクル」と呼ばれる、唾液中の糖タンパク質から成る、ごく薄い膜で、覆われています。このペリクルは、歯を、酸から守るなど、重要な役割を果たしていますが、一方で、ステイン(着色汚れ)の、足がかりにも、なってしまいます。ここへ、お茶や、コーヒーに含まれる、色素成分「タンニン(カテキンなどのポリフェノールの一種)」が、やってきます。タンニンは、ペリクルを構成する、タンパク質と、非常に、結びつきやすい、という性質を持っています。タンニンが、ペリクルに、付着すると、それが、さらなるステインを、呼び寄せる、接着剤のような役割を果たし、飲食物の色素が、雪だるま式に、どんどん、蓄積していきます。これが、「着色」の、第一段階です。そして、この状態が、長く続くと、これらの色素は、エナメル質の、微細な隙間や、亀裂(マイクロクラック)の、内部にまで、深く、浸透していきます。これが、「沈着」の段階です。一度、エナメル質の内部にまで、入り込んでしまった色素は、もはや、表面を、ブラッシングするだけでは、物理的に、届かなくなり、通常の歯磨きでは、落とすことが、できなくなってしまうのです。さらに、加齢と共に、エナメル質が、摩耗して薄くなると、その内側にある、元々、黄色みがかった「象牙質」の色が、透けて見えるようになり、茶渋による黄ばみが、さらに、強調されて見える、という、悪循環にも、陥ります。
なぜ付く?茶渋が歯にこびりつくメカニズム